ブラジル、天性の表現者

金澤 毅  美術評論家

 ブラジルとの文化交流の時代がやってきた。この国との外交史は今年で120年を数え、移住史は107年目に入った。海外で最も日本人が多い国は当然ながらブラジルで、それも今日では日系人も含め130万人を超えている。これまでわが国との交流といえば、工業や農業だけが話題となっていたが、近年ブラジルは国際社会での実力が評価され、文化芸術面での対外交流が格段に伸展した。ブラジルはもはやアマゾンやイグアスーなどの環境問題や観光だけの国ではなく、今日では音楽、ダンス、料理、ファッション、建築、そしてサンパウロ ビエンナーレなどに代表される美術と文化で世界をリードする国の一つとなった感がある。かつてベニスビエンナーレの妹分として1951年にスタートしたこのビエンナーレは、当初目指していたブラジル美術界のレベルを画期的に向上させ、充分な国際競争力を付けたことは、数多くの欧米諸国でブラジル美術展の開催が求められてきたことを見ても理解できる。この国の魅力でもある多民族による混血文化、特にアフリカ系文化の野生的且つ祝祭的性格、非都会的表現、人々の意表を突くスケール感、実験的且つ冒険的試み、快楽的且つ人間的発想などといった特性が、今日の世界の論理的階級社会の閉塞感を破ったのではないかと思っている。

 今回武蔵野美術大学日本画研究室とCAJ アーティスト イン レジデンス プログラムで日本に招聘された「アトリエ・フィダルガ」は、15年前サンパウロに設立された。アウバーノ アフォンソとサンドラ シント夫妻の主宰する美術研究グループである。会員たちは主催者によって選考され、ワ-クショップにおける相互的研修や自作品制作に参加するが、以後は緩やかな結束の中で作家活動を続けている。代表者のアウバーノとサンドラの両名はすでに国の内外で活発な活動を展開していてブラジル美術界では知られた存在である。

武蔵野美術大学訪問教授として招聘されたこの2名のほかに、2人の作家、フラビオ セルケイラとジンギ・ムサが時を同じくして大宮のCAJ アーティスト イン レジデンスに滞在する。このほかにも出品や来日を希望する作家が多いと聞いている。大いに盛り上がった今回のプログラムとその結果生じる人間交流が、今後の彼等の作家人生にどのような成果をもたらすのかが楽しみである。

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